両建て手法のメリットとは?【長期投資のリスクヘッジ、株主優待を価格変動のリスクなしで受け取る、急騰銘柄への売り禁対策】

両建てとは?

両建てとは一つの銘柄に対して「買い」と「売り」の両方のポジションを持つ方法を言います。必ずしも両ポジションを同価格で持つ必要はなく、投資家の考え方や戦術によって両建てのタイミングや決済のタイミングを使い分けるのが一般的です。

両建ては株だけではなく、FXにおいても使われる投資法ですが、投資家によって賛否両論あり、意見が分かれるところでもあります。

確かに両建ては相場の流れを読み取る力が強い人が使うと、より利益を狙える可能性が出てきますが、そうでない人が使うと決済のタイミングが分からず、余計な損失までも計上してしまう可能性があります。また、人によっては、両建ては精神的負担を減らす役割しかないと考えいます。

両建ては、買いを現物にするか信用にするかでその使い道というのが変わってきます。この辺りについても後程解説いたします。

両建てを行う事による意義

両建て手法によるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

代表的な例として

  1. 長期保有株の一時的な下落に対するリスクヘッジ(つなぎ売り)
  2. 株主優待制度をタダで受ける事が出来る
  3. 急騰銘柄の売り禁対策による両建て

等が挙げられます。ここからは、各メリットの詳細について解説していきます。

長期保有している株(含み益有り)が一時的な下落(調整)トレンドに入った時に信用売りでリスクヘッジを狙う

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このパターンは「つなぎ売り」とも呼ばれ、両建ての中では比較的有効な手法と言えます。

上記の例では、100円で1000株の現物買いをしています。その後、上昇トレンドに乗り、含み益は拡大してきます。株価というものは当然ながら、一直線に上昇していくわけではありません。上昇下降を繰り返し少しづつ上昇していくのです。この下降の部分を調整と言い、上昇中の株価は一時的な調整(押し目)をつくっては反発に転じ、再び上昇していきます。

しかし、この調整も、これまでに作用していた支持線や、移動平均線を割り込んできたときには、一時的な下落ではなく、本格的な下降トレンドへの突入も視野に入れて考える必要が出てきます。もちろん、本当にそのまま下降トレンドに突入するか否かは、その場に立たされていたら分かるはずもありません。

そんな時に、損失拡大を防ぐための信用売りによるリスクヘッジを行うのです。

100円で1000株購入し、現在の株価が130円だったら含み益は30,000円です。ここで130円での信用売りを行うと、損益は+30,000円で固定されることになります。

その後再び上昇トレンドへの転換が確認出来たら、売り玉を決済し、現物株は引き続き保有します。この時点で、信用売りした時の株価より買い戻した時の株価が安ければ、その分が利益になります。しかし、信用売り直後に株価が上昇し始めた際は買戻しによる損切りか現渡しによる決済をする必要が出てきます。

一方で、下落トレンド突入の可能性が高くなってきたら、現渡しによる決済が一番効率的と言えます。

【現渡し】
信用取引の決済方法の一つです。信用売りは証券会社から株を借りている状態です。通常ならば買戻しによる反対売買で決済をするのですが、空売りをしている銘柄と同銘柄を現物で保有していた場合は、これを証券会社に引き渡すことにより決済することが出来るのです。

【現引き】
同じく、信用取引の決済方法の一つであり、信用買いした買い玉を売却による反対売買で決済するのではなく、信用買いした分の代金を支払う事によって、現物株として引き取る決済方法のことです。一般的には、返済期限が迫っており、さらなる上昇が見込めそうな場合に現引きという決済方法を選択する事が多いです。

株価が一時的な下落(調整)した時に現物株を売るのではなく、新たに信用売りのポジジョンを持つ理由

株価が調整に入る=上昇の勢いがなくなる、という事だから現物株を一旦売却し利益確定をしてから、再び上昇に転じたらその時に新規の買いを入れればよいのではないか?

こう考える人がいるのも当然であり、私自身も株価が調整に入った時は一旦利益確定、当ブログでもこちらの方法を過去記事にてご紹介しております。にも関わらず、現物を保有したまま信用売りを仕掛けるメリットはどこにあるのでしょうか。このことについて考察してみたいと思います。

長期保有中の銘柄を安値のうちから仕込んでいたと仮定すれば、一時的な下落の最中であっても、それなりの含み益が出ている状態にあります。こういった場面で一旦売却をしてしまうと、後にトレンド転換したとしても、既に高値に位置しているかもしれないという心理から新規買いというアクションが起こしづらくなるのです。

また、ある程度の含み益が出ていれば株価が多少上下することがあっても、安心して保有し続けられるというメリットもあります。これが、一旦売却してからの新たな新規買いであったら、多少の含み損に耐えられずに損切りしてしまい、結果として余計な損失を出す事にも繋がってくるのです。

株主優待制度を価格変動のリスクなしに受け取ることが出来る(思わぬ失敗の可能性あり、おすすめはしません)

両建て(この場合はクロス取引とも呼ばれています)を上手く使う事によって、株主優待制度を価格変動のリスクなしで受け取る事が可能になります。その仕組みをこれから解説していきます。

そもそもどのタイミングで株を持っていれば、株主優待制度を受ける事が出来るの?

株主優待や配当金を受け取るためには、その企業の権利確定日に株主である必要があります。権利確定日は多くの企業が決算日となっています。つまり、株主として、配当金や優待制度を受け取るには、株主名簿に登録される必要があるのです。

株主名簿に登録されるには?

株主名簿に登録されるためには、権利確定日の3営業日前(権利付き最終日)までに株を購入する必要があります。

25日(火)  
26日(水) 権利付き最終日
27日(木) 権利落ち日
28日(金)  
29日(土) 非営業日
30日(日) 非営業日
31日(月) 権利確定日(決算日)

 

上の表を例に挙げると、26日までに株を購入すれば、株主の権利を得ることが出来ます。26日に購入すれば、権利落ち日である27日には売却してしまっても構いません。ちなみに、3営業日ということなので、土日は含めないで計算します。

権利付き最終日付近は株価が高くなり、権利落ち日は株価が安くなる傾向にあります。つまり、権利付き最終日に購入し、権利落ち日に売却するというスタンスでは、配当金や優待制度を受け取ったとしても、それ以上の売却損が出てしまうことになります。

このような株価変動リスクを抑えるために、両建てを使うのです。

株主優待制度を受け取るなら、現物買い+信用売りである必要が出てきます。ちなみにこの場合、配当金を受け取ることは出来ません(配当落調整金により相殺される)。

現物買い【配当金、株主優待共に受けられる】

信用買い【配当落調整金を受け取れる。株主優待制度は受けられない】

信用売り【配当落調整金を支払う必要がある】

配当落調整金とは?
信用買いにより株を保有をして配当の権利付き最終日を迎えた場合は、買い手は調整額を受け取り、売り手は調整額を支払う必要が出てきます。配当落調整金の計算は信用取引の種類でも変わってきます。一般信用取引による売り玉を持っていた場合は配当落調整金の100%を支払う必要があります(配当金が1万円の場合、配当落調整金として1万円全額を支払う)。一方で、制度信用の場合は配当落調整金の84.685%を支払う必要があります(配当金が1万円の場合、配当落調整金として15.315%の所得税分を差引いた8,469円を支払う)。

株主優待獲得に向けた両建ての具体的な手順

権利付き最終日の前場寄り付き前に、現物買いと信用売りを同数量で成行注文しておきます。権利付き最終日にポジションを持つ理由は、空売りをしたことによる貸株料(信用売りをする際に支払う金利)を減らすためです。この貸株料というコストを抑えるために、権利付き最終日での取引を行うのです。

そして、権利落ち日になったら、現渡しにより決済します。

実際の手順はとても簡単なように見えますが、実はこの方法にはあるデメリットが存在するのです。

逆日歩による思わぬ損失計上の可能性も

株主優待制度をタダでゲットできる。

こんな夢のような技がリスクなしに出来るはずもありません。この場合のリスクは「逆日歩」の存在です。

逆日歩とは信用取引による空売りが増えてきた際に、不足した株券を調達する費用の事です。信用売りにより株を借りる人が増えると、証券会社の株券が不足します。すると証券会社は不足した株券を補うために、大口の機関投資家などから株券を調達する必要が出てくるのです。

しかも、この逆日歩は翌日発表のため、正確な支払い金額は次の日になってみないと分からないのです。ちなみに、日本証券金融のホームページにて発表される、信用買い・信用売りの速報等から過不足の状況を確認することは可能です。

実際にこの逆日歩のおかげで、株主優待を遥かに上回る損失が出たという事例もいくつかありますが、これにつきましては、別途記事にてご紹介する予定です。

一般信用取引という逆日歩のかからない空売りもある

制度信用取引では証券取引所が策定したルールにのっとり、取引を行います。つまり、信用取引が可能な銘柄、返済期限なども証券取引所が定めているため、どの証券会社で取引をしても内容は同じなのです。

一方、一般信用取引は各証券会社ごとにルールを策定しているため、信用取引が可能な銘柄、返済期限等が証券会社ごとに異なります。また、一般信用では空売りが出来ないという証券会社もあり、空売り可能な証券会社でも、株券の在庫や銘柄に限りがあるため、思うような取引が出来ないというのが現実です。

それぞれのコストを比較してみると、金利なら制度信用の方が安く、手数料なら一般信用の方が低いという傾向はあるようです。

売り禁対策として両建てを行う

売り禁とは新規の信用売り(空売り)を禁止する事です。この措置は日本証券金融が行い、売り禁になると、空売りと現引きが出来なくなります。

売り禁により現引きまで出来なくなる理由

信用売りの際の貸し出す株には、信用買いで預かった株も含まれています。信用買いした株は証券会社が担保として預かり、預かった株は新規の信用売りの貸し出し用としても利用されるのです。株券が不足している時に現引きをされてしまうと、さらに株券が不足してしまい、新たな調達の必要性が出てきます。これを防止するために、売り禁の際は現引きも禁止にするのです。

売り禁になる理由

売り禁による規制措置がかかるのは、個別銘柄の相場が過熱し、株価が異常な急騰を見せた時などです。株価は急な上昇をすると、反動による急落を予感した投資家達による空売りがたくさん入ってくることになります。このような時に、日本証券金融がこれ以上の貸株の調達・提供が難しいと判断し、売り禁による規制をかけるのです。

売り禁は一般的には、その日の大引け後に発表されることが多いですが、緊急性を要する場合は、前場終了後に売り禁措置の発表がなされる場合もあります。措置の告知は、日本証券金融及び、東京証券取引所のホームページなどで発表されます。

売り禁後の株価はどうなる?

売り玉は金の玉
自分の信用売りしていた銘柄に売り禁の規制がかかったならば、目先の上昇に惑わされることなく、暴落するまで保有するべき。

このような考え方をしている投資家も多くいますし、私自身もそれが必ずしも間違っているとも思いません。しかし、売り禁がかかった時点で既に多くの投資家が信用売りのポジジョンを持っていたとすると、これは必ずしも売り方が有利な状況とは言えません。

売り禁の時点で信用売り残が膨らんでいる状態というのは「踏み上げ」相場への転換の可能性があるからです。また、逆日歩の発生も踏み上げ狙いの買いが入る要因となります。

売り禁=株価急落とは必ずしも言えませんし、踏み上げの発生で再度大幅な上昇をする可能性もあるのです。また、逆日歩が発生した際は、予想外の費用に苦しめられることになるかもしれません。

踏み上げの詳細が知りたい方は、「信用残高から投資家の心理を読み取る【投げ売りと踏み上げ】」をご覧ください。

信用買いと信用売りを組み合わせた売り禁対策

では両建てを使った売り禁対策というのは、いったい何なのでしょうか。これについて解説していきます。

まずは貸借銘柄で売買が過熱している銘柄に対して、売り禁になることを見越した上で同数量の両建てを行います。この時に注意するのは、現物買いではなく、信用買いによりポジションを保有する事です。これは逆日歩対策によるもので、信用売りをしている時に発生した逆日歩は、翌日に持ち越すことになれば、当然ながら支払わなければなりません。

しかし、信用買いをすることで逆日歩を受け取る事が出来ますから、信用売りの逆日歩費用と相殺することが可能になるのです。これにより逆日歩の発生によるコスト問題はクリアしたことになります。

信用買いと信用売りの両建てが完了したら、株価上昇の勢いがなくなったタイミングを見計らって買い玉を決済します。そして、十分な株価急落の後に売り玉を決済すれば、空売りでの利益も狙えることになるのです。

説明だけを聞けば、何となく出来そうな気がしてしまいますが、実際にはかなり難易度の高い手法になります。買い玉、売り玉それぞれの決済のタイミングが狂ってしまうと、どちらも損失、まさに往復ビンタを食らってしまう事になるのです。

両建て失敗、往復ビンタのパターン

両建ての怖いところは、決済のタイミングを間違えると、買い、売りの両方で損失が出る可能性があるところにあります。

両建て手法による失敗の典型的なパターンです。相場の流れの読みを誤ると、このような結果になってしまいます。また、空売りで利益を取れたとしても、買いで損失を出し、トータルでマイナスになってしまったら何の意味もありません。

損失を軽減し、あわよくば両ポジションで利益を狙い両建てしたにも関わらず、それが原因で損失を拡大させてしまっては本末転倒です。

要点整理

  1. 「買い」と「売り」の両方のポジションを持つことを両建てという
  2. 両建ては、長期保有株の一時的な下落に対するリスクヘッジ(つなぎ売り)、株主優待をタダで貰う、売り禁対策という側面から見れば、それなりに意義のある手法と言える
  3. 株主優待制度を受けるための両建ては、現物買いと信用売りの組み合わせで行う
  4. 上記の方法を行う際は、逆日歩コストと貸株料を考慮に入れる
  5. 一般信用取引という逆日歩のかからない信用売りもあるが、制限も多く、必ずしも売り玉を持てるわけではない
  6. 売り禁対策の両建ては、信用買いと信用売りの組み合わせで行う(逆日歩相殺のため)
  7. 売り禁=必ずしも株価急落ではない、状況によっては「踏み上げ」も起こり得る
  8. 両建ては決済のタイミングを間違えると、損失拡大の可能性もある

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