円が安全資産と言われる理由を「国力」と「信用力」から考察する。

本日はリスク回避の動きが広がり安全資産の円が買われ円高になりました…。

為替のニュースで聞くことのあるこのフレーズ。何気に聞いていると聞き流してしまうのが普通ですが、円が安全資産って本当なのか?、こんな疑問を持ったことはありませんか。

為替の世界に限って言えば、円は安全資産、と言ってしまって差し支えないと思います。なぜ円は安全資産なのか、その理由を「国力という観点」、「信用力という観点」の2つに分けて解説いたします。

為替は相対的な存在である

一言で為替と言っても世界には様々な通貨が存在しています。日本で利用されている円、アメリカで利用のドル、EU加盟のヨーロッパ諸国で利用のユーロ、イギリスのポンド等、様々な通貨が存在しています。

それらの通貨の価値をどのように決めているかと言えば、それは為替市場が決めています。1ドル110円という価値は各国政府が決めている訳ではなく、あくまでも為替市場が決めています。政府は通貨の価値に影響力を与えようとはしますが(ex.為替介入)、その価値を決めるのはあくまでも為替市場です。

そして為替“市場”であり、様々な通貨の売り手と買い手が存在することで、その価値は相対的に決まっていきます。例えば、円とドルとユーロの3通貨だけでも、その通貨の価値はその時々及び長い目で見れば様々な要因で市場において決められていきます。

そして為替の世界では、円が安全資産=円が他の通貨に比べて価値があるので買われやすい、ということに他なりません。

それではなぜ円は他の通貨に比べて買われやすい、と言う事になるのでしょうか?その理由を①国力、②信用力、といった2点から考えてみます。

理由1:恒常的な経常黒字及び外貨準備を背景とする国力

世界で最大の国力を有する国はどこか?、という質問には殆どの方はアメリカ、と答えると思います。そしてアメリカの通貨ドルが世界の基軸通貨となっています。

国力は一言で言い表すことはできないものの、経済力に軍事力に政治力等を含めた様々な国の力、と考えることができます。経済力、軍事力、政治力とあらゆる面においてアメリカは他国を圧倒しており、世界最大の国力を有する国というのは疑問を挟む余地はありません。

それではアメリカに次ぐ国力を有する国はどこか?経済力では中国や日本、軍事力ではロシア、政治力ではドイツ・フランスを中心とするEUがあり、ナンバー2の国は簡単に決めることができません。

ただし世界の主要国を比較した際、日本はGDPで世界第3位の経済大国(第2位は中国)。そして経常収支の黒字国であり、外貨準備1,230,330百万ドル(2017年3月末時点、約130兆円)を誇る経済大国であるのは間違いありません。たしかに中国はGDPから見れば世界第2位の経済大国ですが、為替市場はオープンになっておらず、為替の世界では中国の人民元は非常にマイナーな存在です。

いわゆる主要国通貨のドル、円、ユーロ、ポンド、スイスフランの中で、世界の基軸通貨ドルを除いた時、次にどの通貨が安全かを考えると、円が買われる=安全資産の理由がすんなり分かります。

ユーロは確かにギリシャの債務問題が勃発する前は円より安全な資産、という時期もありましたが、ギリシャの債務問題のゴタゴタ、BRXITでのイギリスのEU離脱等があり、その価値は下落傾向。そもそもユーロという通貨自体1999年スタートの通貨であり、またEUという体制自体も第二次世界大戦後に生まれた体制です。よってすんなりドルに次ぐ通貨、と現在は言えない状況となっています。

ポンドはイギリス自体が経常赤字国であり、他国からファイナンス(資金調達)が必要不可欠の国。更にBREXITでEU離脱が決定しており、BREXITの影響からスコットランドの独立等、イギリスという国の形自体が変わりかねない一歩手前に位置しています。

スイスは経常黒字国で、スイスという国及びスイスフランという通貨自体に長い歴史もあり、安全資産と言われますが、日本と比べると経済規模ははるかに劣ります。

そのように考えていくと、日本の円は消去法的にも買われることになります。円は主要国通貨であり、日本の経済規模は世界第3位で経常黒字国で外貨準備も豊富。第二次世界大戦でアメリカ相手に戦争して大敗した歴史はあるものの、円は明治時代から使われており、国の歴史も非常に古い国です。

年金の問題や人口の問題等、日本が抱えるミクロの問題は言い始めるとキリがありませんが、相対的な通貨の世界でドルを除いた時に安全な通貨は何か?、と考えると円は総合的には比較的安全な通貨、ということが理解できるのではないでしょうか。

理由2 貸したお金が返ってくる安心感=信用力

円が安全資産と言われる理由、その2は、貸したお金が返ってくる安心感がある=信用力がある、という点にもあります。

日本人にとっては借りた金は返すのが当たり前、というのが常識ですが、実はこの常識は世界的に見ると常識としては結構怪しい部類に入ります。特に“国にお金を貸す”という観点では。

国という観点では、世界で最も安心してお金を貸せるのはドイツとなります。経常黒字国であるという点はもちろん、第一次世界大戦の莫大な賠償金を2010年まで92年かけて払い続けた、という歴史的事実もあり、ドイツには安心してお金を貸すことができます。

日本も同様で経常黒字国且つ約130兆円を誇る外貨準備に加え、第二次世界大戦の敗戦があってもデフォルトしていない、という歴史的事実も存在しています。日本は借金大国とは言われますが、自身の借金は殆ど国内の資金で賄っており、その上で海外投資に資金を振り分けられるという金持ち国家(世界に冠たる債権国)です。

イギリスは確かに大英帝国の輝かしい歴史を持った国ですが、現在は経常赤字国であり、海外からのファイナンス無しには国の資金繰りは成り立ちません(要は債務国)。よって貸した金が返ってくるかどうか、という点では、本当に返すことが出来るのか?、という部分がどうしても出てきます。

ユーロという通貨に至っては、通貨に国家の裏付けがない通貨のため、ドイツがユーロはもう止めた、としてしまえば、最悪紙くずとなってしまう可能性があります。さすがに紙くずはないにせよ、ユーロ=ドイツマルクと考えていたら、実はフランスフランになりました、という事態だって可能性としてはあります。

そう考えるとスイスフランは安心できる通貨です。スイスの成立は1291年、一貫して独立を保っています。また経常黒字国且つ豊富な外貨準備を有しており、金を貸す相手としては申し分ない相手と言えます。スイスフランは円と並ぶ安全資産、と言われることもありますが、上記観点からは納得できる面が多分にあります。

相対的な為替の世界の中では、これらの通貨と比べると経済大国日本の通貨“円”が安全資産、と言われる理由が肌感覚で分かるのではないでしょうか?

アメリカのドル以外の通貨は、ある意味でドングリの背比べ状態ですが、その中でも日本円は安心して見ていられる通貨と考えることができます。

為替の相対性を分解して考える視点

株の世界では全銘柄下落というような事態が時として発生します。しかしながら通貨“ペア”と言われるように、2つの国の通貨の交換で成り立つ為替の世界では、何かが売られれば何かが買われます。よって全通貨下落、というような事態は発生しません。

この相対的な視線が為替を見るときに必要不可欠な視点となります。例えば円安となってドル円(USD/JPY)が上昇した(100円→101円)、と言ったとき為替の世界では、3つのケースが想定されます

  1. USD↑+JPY↓
  2. USD↑+JPY→
  3. USD→+JPY↓

ドル円が上がった、と一言で表現しても

  1. ドルが買われて円が売られた
  2. ドルが買われただけ
  3. ドルに関係なく円が売られた結果相対的にドル円が上がった

以上の3つのパターンが想定されるので、現在のドル円の上昇がどのパターンに該当するのか、と言った検証が本来は必要となります。

ケース1:東日本大震災で円高が進んだ理由        

このような相対性を使ったメカニズムを使うと、東日本大震災の際、地震及び原発事故で大揺れの日本でなぜ円高が進んだか、という点を筋道立てて説明することができます。

USDの値動きに関係なく、猛烈な勢いで買われるJPYの影響により、必然的にUSD/JPYは円高になります。

USD→+JPY↑↑↑

この考え方で行くと、東日本大震災後の次の営業日である月曜に、一気に日本株を売却した海外勢は、それと同時にJPYを買い戻すことになります。「日経平均↓↓↓+JPY↑↑↑」となった取引は、次の為替の段階では次の値動きを見せることになります。(ドルベース)

機関投資家は外国株を買う際は、株式を買うと同時に為替リスクを避けるため同時にその国の為替も売却します。それにより外国株式における為替変動リスクをヘッジします。

日経平均↓↓↓+JPY↑↑↑

東日本大震災の後、一気に売られた日経平均は次のように表すことが出来ます。

東日本大震災が発生したのが金曜日の夕方でしたが、翌週の月曜日、日経平均は▲633円という大幅な下落となりました。実は日経平均も世界標準で見ると”日経平均/JPY”となります。ドル建て日経平均という指数も存在していますが、ドル建て日経平均は“日経平均/USD”となります。

2011年の東日本大震災では一気に円高が進みました。震災被害があった日本の円が買われるというのは、非常に不思議な状態ですが、この値動きも株式を間に挟むことで相対性を利用して説明ができます。

 

ケース2:1980年台半ば円高が進む中で日本の株高が進んだ理由

2017年時点では、円高になると日本株が下がるとの認識が一般的です。それは「ケース1」の説明で理由付けができます。しかしながら、1980年台半ばは円高が進む中で日本の株高が進んでいます。本ケースを相対性で読み解いてみます。

円高が進み尚且つ株高が進むということは、「ケース1」で利用した公式を利用すればまずは下記のように表すことができます。

  1. USD↓+JPY↑
  2. 日経平均↑+JPY↓

JPYが①は↑で②は↓となっており、このままでは辻褄が合いませんね・・・。 、しかしながら下記のように考えることもできます。

  1. USD↓↓↓+JPY↓
  2. 日経平均↑+JPY↓

 USD/JPYが円高(↓)の理由は、USDとJPYの両者の理由で動いたのではなく、USDの下落が激しく(↓↓↓)、JPYの下落(↓)をものともせず円高となった、という形となります。よって1980年代半ばのドル円の下落は、円高というよりもドル安、というのが正しい考え方となります。

それを踏まえてドルの相対的な強さを表すドルインデックスの月足チャートをご覧ください。

ドルインデックスは1985年を天井にその後1987年一杯まで下落を続けているのが分かります。丁度その頃の日本はバブルの真っ最中、円高が進んで日本の株高が進んだ理由も、上記のように相対性で説明が可能になります。

なお、1985年9月に歴史的なプラザ合意があり、上記期間は政策的にドル安を作り出していた、という背景があることも、踏まえる必要もあります。(プラザ合意を背景に考えれば、USD↓↓↓↓で丁度良いかもしれません)

円と安全資産の関係とは若干外れますが、「ケース1」、「ケース2」のように相対性を踏まえて為替の値動きを考えていくと、為替の値動きを理由をもって眺めることが出来るようになります。東日本大震災とプラザ合意後の為替市場と言う極端な例のため株の要素も持ち出しましたが、通常の相場であれば、ほぼ為替要因のみで値動きが説明できます。

円が安全資産で買われやすい通貨という点、そして為替市場は相対的なものという視点の2つを意識することで、これまで何となしにしか見えていなかった為替の値動きが、明確な理由をもって眺めることができるようになります。

まとめ

新聞等で円は安全資産、と耳にしますが、本稿では円が安全資産である理由、そして相対的な値動きを見せる為替市場の原理を背景に、為替の値動きのメカニズムの一端を解説しました。

為替市場が大きく動いて、円高が進んだ際にその値動きは、安全資産として円が買われた結果なので、それとも円に関係なくドルが売られた結果なのかを考えるだけでも、為替市場に対し新しい視点を持つことができます。

為替市場の値動きを考える際、上記視点で読み解いてみてはいかがでしょうか。今まで理解できなかった為替市場の値動きに新しい発見があるかもしれません。

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