貸借対照表の純資産の部(株主資本)を深堀りしてみる

貸借対照表の資産の部、負債の部はそれぞれ理解しやすく、出てくる用語等から大方のイメージを持つことが出来ます。

しかし、純資産の部、中でも株主資本の中身を正確に理解している人はなかなかいません。私自身も勉強中の身ではありますが、自らの知識整理のために、貸借対照表の純資産の内、株主資本の中身について詳細を解説してみます。

純資産の部【株主資本の中身】

貸借対照表は右と左が必ず一致します。資産から負債を差し引いた額、これが純資産となります。

資産 負債
純資産

 

純資産の中身を大まかに表現すると、資本金=株式発行により調達した資金、利益剰余金=企業がこれまでに稼ぎ出した利益となります。

実際、株式投資目的で財務を見る場合は、この2点さえ理解していれば問題はありません。しかし、それでは知識吸収に貪欲な投資家は、知りたいという欲求を抑える事が出来ないでしょう。

…ということで、この純資産の中身を詳しく見ていきます。ちなみに、株主資本以外の解説に関しましては、今回は割愛させていただきます。









株主資本
 1.資本金
 2.資本剰余金
  ①資本準備金
  ②その他資本剰余金
 3.利益剰余金
  ①利益準備金
  ②その他利益剰余金
   Ⅰ任意積立金
   Ⅱ繰越利益剰余金
 4.自己株式
  その他包括利益累計額
 1.その他有価証券評価差額金
 2.繰り延べヘッジ損益
 3.土地再評価差額
 4.退職給付に係る累計調整額
  新株予約権
非支配株主持分
純資産合計

 

前述したように、純資産の部は、資本金=株式発行により調達した資金、これまでの利益の蓄積=繰越利益剰余金の2つにより成り立っていると言いました。

そこで、純資産の部(株主資本)を配当上記2つの観点から分類すると次のようになります。

 株主資本の構成
資本金 株主からの資金調達
資本剰余金
 ①資本準備金
 ②その他資本剰余金
利益剰余金 企業の利益が積み重なったもの
 ①利益準備金
 ②その他利益剰余金
  Ⅰ任意積立金
  Ⅱ繰越利益剰余金

 

上記表を配当の可否によって分類すると以下のようになります。

資本金  資本 配当出来ない
 ①資本準備金
 ①利益準備金
 ②その他資本剰余金 剰余金 配当出来る
 ②その他利益剰余金
  Ⅰ任意積立金
  Ⅱ繰越利益剰余金

 

なぜ利益剰余金は配当できるのに、資本金は配当に回すことが出来ないのか。これは企業にとっての株主と債権者(お金を貸してくれている人)保護の観点に立つと理解しやすいかと思います。

株主の保護と言う観点では、株式発行により調達した資金=資本金の額を勝手に変えてはいけないという点が挙げられます。そのため、資本金、資本準備金を取り崩すためには株主総会による決議が必要になっています(この辺りは後程解説)。

そして、資本金が配当出来ない理由が、債権者の保護と言う観点になります。資本金とは元を辿れば株主に辿り着きます。しかし、株主が残余財産分配請求権を持っているとは言え、その返済順位については債権者よりも後回しになります。会社が解散し、財産を配分する時は、まずは債権者に分配するという仕組みです。

では、資本剰余金とその中身である資本準備金とその他資本剰余金とは何を表しているのでしょうか。

資本準備金

会社法では、株式発行により調達した資金の1/2を超えない額を資本準備金として計上することが出来ると記載されています。逆の言い方をすれば、株式発行による調達した資金の1/2以上は資本金に組み込み、残った分は資本準備金に組み込む必要があるという事です。

では、なぜ資本金と資本剰余金とを分ける必要があるのでしょうか。全部資本金にすれば良いのではと考える人も多いはず。

資本金の一部を資本準備金に組入れる大まかなメリットは以下になります。

資本準備金のメリット①:欠損補填が比較的柔軟に実行できる

資本金は企業の元手を表しており、非常に重要なものです。この数字と言うのは簡単に変える事が出来ません。

そこで力を発揮するのが、資本準備金です。資本準備金は資本金に比べると比較的取り崩しがし易く、それにより欠損補てんが行いやすいというメリットがあるのです。言い換えれば資本準備金は、将来の欠損補てんに備えているとも考える事が出来ます。

欠損補てんのために資本金を取り崩す=減資ということになります。これを防ぐためにも資本準備金の存在は重要になってきます。

先ほど、資本準備金は資本金よりも取り崩しがし易いと言いましたが、具体的には手続き上の話になります。資本金を欠損補てんのために減らす場合は、例外的に普通決議(議決権の2/3以上の賛成)が必要になるのになります。この数字は資本準備金と変わらないものの、資本準備金の取り崩しに関しては債権者保護手続きが必要ありません。

債権者保護手続きとは、簡単に言えば減資などの組織再編の際に、それに対する異議を述べる機会を与えるための手続きになります。そりゃ、簡単に減資なんかされたらたまったものではありませんからね。

ちなみに、資本準備金の取り崩しについて、貸借対照表を用いて説明してみると以下のようになります。

 純資産の部(簡潔に表記するために不要なものは省いています)
資本金 1,000,000
資本剰余金  
 資本準備金 500,000
利益剰余金  
 繰越利益剰余金 △300,000

 

上記の資本準備金500,000と繰越利益剰余金△300,000を相殺すると以下のようになります。

資本金 1,000,000
資本剰余金  
 資本準備金 200,000
利益剰余金  
 繰越利益剰余金 0(資本準備金により欠損補填)

 

こうすることで、貸借対照表自体の見栄えは確かに良くなります。しかし、資本準備金の取り崩しが、資本金に比べれば比較的柔軟に出来るとは言え、資本準備金も元を辿れば、株主から集めたお金に他なりません。

しかも欠損=累積赤字という事ですから、補填によりマイナスが相殺された分、今後はプラスが積み重なっていけば良いですが、企業の組織再編というのは、そんなに単純なものではありません。

しかし、全てを資本金に組み込まず、資本準備金に組み入れるメリットとして、以上の流れを覚えておけば良いでしょう。

資本準備金のメリット②:税金によるメリット

資本金は債券者がその企業の信用性を計る目安の1つとなります。だからこそ、出来るだけ多くを資本金として計上したいという人もいれば、前述の通り、資本準備金を予め設定することで、企業運営の柔軟性を高めたいとする人もいます。

資本準備金を設定する=資本金に組み入れる額を少なくするという事ですので、これは税制面において企業にメリットが存在することになります。

よく言われているのが、資本金1,000万円以下なら、消費税が最大で2年間免除される可能性もあり、設立間もない会社にとってはメリットに繋がります。

また、法人税の観点から見ても、資本金が1,000万円を超えるか否かと言うのは、税金の発生額に大きくかかわっている事を覚えておきましょう。

その資本剰余金

その他資本剰余金発生の理由を簡単に言うと、資本金や資本準備金を取り崩しで差損益が出た場合(減資等)、自社株式の処分で差損益が出た場合などがこれに該当します。

減資は有償減資と無償減資とに分ける事が出来ます。株主に資金の払い戻しをするのが有償減資、払い戻しをしないのが無償減資になります。

1.有償減資

有償減資では資金の払い戻しにより減資を行います。株式発行により資金を調達したは良いけれど、その資金を有効に活用することが出来ない。その分のお金は返すから、どこか別の所で有効な使い方をしてくださいと言った形の減資になります。

有償減資(実施前)
資産 負債
現金:600万円 借入金:300万円
純資産
資本金:300万円

 

有償減資(資本金を減らした分をその他資本剰余金に振替)
資産 負債
現金:600万円 借入金:300万円
  純資産
  資本金:200万円
  その他資本剰余金:100万円

 

有償減資(実施後:現金とその他資本剰余金を相殺)
資産 負債
現金:500万円(600-100) 借入金:300万円
純資産
資本金:200万円
その他資本剰余金:0(現金と相殺)

 

2.無償減資

資本準備金のところで説明したように、会社に欠損がある場合は、資本金を取り崩した上で、補填を行います。

 無償減資(実施前)
資産 負債
 現金:600万円    借入金:300万円
純資産
資本金:400万円
繰越利益剰余金:△100万円

 

 無償減資資本金を減らした分をその他資本剰余金に振替
資産 負債
現金:600万円    借入金:300万円
純資産
資本金:300万円
その他資本剰余金:100万円
繰越利益剰余金:△100万円

 

 無償減資(実施後:その他資本剰余金と繰越利益剰余金を相殺)
資産 負債
現金:600万円 借入金:300万円
  純資産
  資本金:300万円
  その他資本剰余金:0(繰越利益剰余金と相殺)
  繰越利益剰余金:0(その他資本剰余金と相殺)

 

無償減資実施後の貸借対照表は上記のようになります。これが資本金の減少により、その他資本剰余金が発生する仕組みです。

次は自己株式の処分によるその他資本剰余金の発生を解説していきます。

自社株買いにより、市場から自社の株式を買い入れると、貸借対照表では次のように表されます。

 自己株式売却前
資産 負債
現金:200万円 借入金:100万円
純資産
資本金:80万円
繰越利益剰余金:30万円
自己株式:△10万円

 

さて、自社株買いにより買い入れた自己株式の行く末は、処分若しくは消却の2つに分かれます。

消却とは、自己株式の発行をそもそも無かったことにするという意味です。これについては簿記の知識が有る方ならば、仕訳をイメージすることにより、理解しやすいかと思いますが、そうでない方はなかなかイメージが湧きづらいかと思いもいます。

ちなみに、参考までに仕訳をしてみると以下のようになります。

その他資本剰余金 100,000/自己株式 100,000

このようになります。簡単に言えば、自己株式を無かったことにして、その分はその他資本剰余金から差し引きましょうね、という事です。

対して、処分とは、自己株式を売却する事です。

消却は自己株式を無かったことにする。

処分は自己株式を売却する。

似てるようですが、実は中身は全く違います。そもそも自社株買いは、株主に好感される傾向にあり、株価も上昇します。自己株式の取得により、1株当たりの純利益が上昇します。これにより株価が上昇するというのはご理解して頂けるかと思います。

その自己株式をそのまま消却してしまえば良いのですが、売却に回してしまうと、流れ的には自社株買いの巻き戻しになります。つまり、その他の条件が全く同じであれば、自己株式の売却により、1株当たりの純利益が低下してしまう事になるのです。

ちなみに、自己株式の処分の仕訳をしてみると以下のようになります。

売却益が生じた場合

現  金 110,000 /  自己株式 100,000
               自己株式処分差益 10,000

売却損が生じた場合

現      金 100,000 / 自己株式 100,000
自己株式処分差損 10,000          
       

この自己株式処分差益(損)はその他資本剰余金に計上する決まりとなっているので、10万円の自己株式の処分により1万円の売却益が出たとすると、先ほどの貸借対照表は以下のようになります。

 自己株式売却後
資産 負債
現金:211万円 借入金:100万円
純資産
資本金:80万円
その他資本剰余金:1万円
繰越利益剰余金:30万円
自己株式:0

 

上記表では自己株式売却により利益が出た場合ですが、損失が出た場合は、その他資本剰余金から差し引くことになっています。それでも足りない場合は、繰越利益剰余金から差し引くことになっています。

以上が自己株式の売却により、その他資本剰余金が発生する理由となります。

利益準備金

会社法では、配当を行う際は、配当額の1/10を利益準備金として積み立てる必要があると規定されています。ただし、利益準備金と資本準備金の合計額が資本金の1/4を超えればそれ以上の積み立ては不要であると規定されています。

利益準備金は元を辿れば、企業の稼ぎ出した純利益に行く着きます。その利益準備金が配当に回せない理由は、突き詰めると債権者保護と言う観点に辿り着きます。

つまり、資本準備金に加え、利益準備金を積み立てる事により、将来の欠損補填に備えろという事です。このように考えれば利益準備金が配当に回せない理由と言うのも、朧気ながら理解出来るかと思います。

その他利益剰余金

その他利益剰余金は、任意積立金と繰越利益剰余金から構成されています。繰越利益剰余金は何度も説明した通り、これまで企業が稼ぎ出した利益が積み重なってきたものです。

任意積立金は、使い道の決まっている「目的積立金」と用途の定まっていない「別途積立金」とに分ける事が出来ます。

任意積立金も繰越利益剰余金と同様に配当に回すことが可能であり、両者の間には明確な違いが無いようにも思えます。

しかし、貸借対照表上の繰越利益剰余金が積み重なってくると、株主からの配当に回せと言う圧力が増すことになります。一方で企業としては、配当も大事だけども、繰越利益剰余金を配当に回してばかりいたら、事業自体への投資資金が貯まらないと言った懸念が出てきます。

こんな時に便利なのが任意積立金なのです。任意積立金により、内部に積み立てる事により、「将来の備え」を理由に会社に資金を貯める事が可能だからです。

任意積立金の積み立てには、株主総会での決議が必要ですが、取り崩しに関しては、それが目的に沿ったものであれば株主総会の決議は必要ないとされています。もちろん、目的外の取り崩しについては、株主総会での決議が必要となります。

自己株式

自己株式に関しては、これまでの説明にも登場したので問題ないとは思いますが、せっかくの機会なので改めて説明いたします。

企業が既に発行する株式を取得・保有することを「金庫株」と言います。

その他資本剰余金の説明で登場した貸借対照表を用いて、再度確認してみます。

資産 負債
現金:200万円(210-10)     借入金:100万円
純資産
資本金:80万円
繰越利益剰余金:30万円
自己株式:△10万円

 

現金で自己株式を買い上げた場合は、その分現金が減ります。そして、右側の純資産の部に自己株式をマイナスで記載します。こうすることにより、貸借対照表の左右のバランスが取れる事になります。

自己株式取得のメリットは以下の2点です。

1.発行済み株式数の減少により1株当たりの利益が増加

企業が買い取った分の自己株式は、発行済み株式数から差し引かれる事になります。これにより、1株当たりの純利益が上昇するため、株価は上昇する傾向にあります。

2.ROE(自己資本利益率)の向上

自己資本利益率とは、株主が出資した資金を活用し、どの程度の利益を挙げているのかを見るための指標です。自己資本利益率が高ければ、それだけ株主から集めたお金を有効に活用できている事にも繋がりますので、この数字は高い方が良いわけです。

自己資本利益率は、当期純利益÷自己資本で計算されます。自己株式の取得は自己資本の減少に繋がりますので、自己株式取得=自己資本利益率の向上に繋がるのです。

まとめ

正直、株式投資をする上での財務分析ならば、ここまで細かく見る必要はありません。私も会計の勉強をしていた頃は、それ自体が苦痛で仕方ありませんでした。しかし、今こうして「株式投資」を実践するようになり、目線を投資家に変えたことで、会計を学ぶ事が楽しくなりました。

長期投資、特にアメリカETFへの投資を実践する上では、当然ながらここまでの知識は必要ありません。

後は趣味の世界です。投資家としてリターン以外の成長をも望むのであれば、是非知識吸収にも貪欲になるべきです。

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